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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)318号 判決

原告 松浦産業株式会社

被告 ハヤセ株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

特許庁が平成7年審判28121号事件について平成9年10月9日にした審決中、登録第2543218号商標の指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」についての登録を無効とするとした部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、「ハッピータッグ」の片仮名文字を書してなり、平成3年9月25日政令第299号による改正前の商標法施行令による商品の区分第18類の「ひも(被服に属するもの及びはき物用又は運動具用ひもを除く) 綱類(運動具に属するものを除く) 網類(運動具に属するものを除く) 包装用容器」を指定商品とする登録第2543218号商標(平成2年10月26日出願、平成4年8月26日出願公告、平成5年5月31日設定登録。以下「本件商標」という)の商標権者である。

被告は、平成7年12月28日、原告を被請求人として本件商標の登録の無効の審判を請求し、特許庁は、平成7年審判第28121号事件として審理した結果、「登録第2543218号商標の指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」についての登録を無効とする。その余の指定商品については審判請求は、成り立たない。」との審決をし、平成9年11月10日にその謄本を原告に送達した。

2  審決の理由

審決の理由は、別添審決書の理由の写しのとおりであって、本件商標の登録が平成3年法律第65号による改正前の商標法4条1項10号の規定に違反してされたときに当たるか否かについて、請求人(被告)が使用する商標「ハッピータック」(以下「引用商標」という。)は、本件商標の登録出願当時、被告の取扱いに係る商品(以下「被告商品」という。)を表示するものとして取引者、需要者の間において広く認識されていたところ、本件商標と引用商標とは、称呼上類似しており、また、請求人(被告)の取扱いに係る商品「紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手」(以下「原告商品」という。)は、第18類に属する「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」と類似するから、本件商標の登録は、その指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」については、前記改正前の商標法4条1項10号の規定に違反してされたものであるから、同法46条1項1号の規定により無効であるとした。

3  審決を取り消すべき事由

(1)  審決書の理由中、21頁下から4行ないし24頁16行、及び27頁下から5行ないし28頁1行の記載(本件商標の登録が指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」について前記改正前の商標法4条1項10号の規定に違反してされたとの判断部分)を争い、その余は認める。

(2)  審決は、引用商標は、本件商標の登録出願当時、被告商品を表示するものとして取引者、需要者の間において広く認識されていたと誤った認定をし、その結果、本件商標の登録は、その指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」については、前記改正前の商標法4条1項10号の規定に違反してされたものであると誤った判断をしたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

すなわち、被告商品が業界全体の6割以上のシェアを確保するに至っていたことを裏付ける証拠はない。また、被告の広告宣伝は、昭和61年に途切れており、毎月の広告回数にもばらつきがあり、定期的に広告宣伝をしていたといえない。そして、原告においても、本件商標の商標登録出願の日前から、本件商標を取引者、需要者の間において広く認識されるべく使用してきたので、引用商標は、必ずしも、被告の取扱いに係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間において広く認識されていたとはいえない。

第3請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1及び2は認め、同3は争う。審決の認定判断は、正当であって、取り消すべき理由はない。

2  被告の主張

原告は、本件商標の商標登録出願の日前から、本件商標を取引者、需要者の間において広く認識されるべく使用してきたので、引用商標は、必ずしも、被告の取扱いに係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間において広く認識されていたとはいえない旨主張するが、被告は、昭和55年から継続的に引用商標を使用しているのに対して、原告の使用は昭和62年以降であり、また、被告の本件商標の使用年数、本件商標に係る商品の製造・販売本数ともに、原告の比ではないから、引用商標の周知性を否定することはできない。

また、仮に本件商標、引用商標のいずれもが周知となっているとすれば、その場合には、双方とも商標登録を認めないのが商標法の精神である。

第4証拠〈省略〉

理由

第1請求の原因1及び2は、当事者間に争いがない。

第2審決を取り消すべき事由について判断する。

1  当事者間に争いがない事実によれば、本件商標が、「ハッピータッグ」の片仮名文字を書してなり、平成3年9月25日政令第299号による改正前の商標法施行令による商品の区分第18類「ひも(被服に属するもの及びはき物用又は運動具用ひもを除く) 綱類(運動具に属するものを除く) 網類(運動具に属するものを除く) 包装用容器」を指定商品とする登録商標であること、引用商標が、「ハッピータック」の片仮名文字を書してなる商標であることが認められる。

2  本件商標と引用商標とを対比するに、上記のとおり、本件商標は、「ハッピータッグ」の片仮名文字を書してなるものであるのに対して、引用商標は、「ハッピータック」の片仮名文字を書してなるものであり、末尾の文字が、前者は「グ」であるのに対し、後者は「ク」である点で差異があるのみであって、しかも、「グ」は「ク」に濁点が付されているにすぎないから、外観において類似していることは明らかである。

また、本件商標からは「ハッピータッグ」の称呼が生じ、引用商標からは「ハッピータック」の称呼が生じるところ、末尾音において「グ」と「ク」の差異があるほか、他の6音を同じくしており、しかも、「グ」は「ク」の濁音であって、近似した音調であり、一連に称呼すると、全体の語感、語調が類似し、聴き誤るおそれがあるものである。

なお、本件商標は、「ハッピー」と「タッグ」を結合させた造語であり、引用商標は、「ハッピー」と「タック」を結合させた造語であって、いずれも、特段の観念を生じるものとはいえない。

そうすると、本件商標と引用商標とが、相互に類似する商標であることは明らかである。

3  本件商標の登録は、その指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」について、前記改正前の商標法4条1項10号の規定に違反してされたものであるとの審決の判断の当否について検討する。

(1)  証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。)によれば、次の事実を認めることができる。

(イ) 原告は、昭和25年に設立した株式会社であり、昭和61年から、原告商品に「ハッピータッグ」との名称を付して、その製造販売を開始し、昭和61年度には約200万本、昭和62年度には約2200万本、昭和63年度には約7200万本、平成1年度には約1億2000万本、平成3年度には1億2800万本を製造するに至った。(甲第20号証、甲第21号証、甲第27号証)

(ロ) 原告は、昭和62年頃には、業界紙であるポリオレフィン時報、日報・包装タイムス、紙業日日新聞に、昭和63年には四國新聞に広告を掲載し、また、紙製・プラスチック製の手提袋のメーカー、一般消費者向けに大量に利用する企業などに対して自社のパンフレット等を送付し、本件商標を使用して原告商品の広告宣伝に努めた。(甲第25号証、甲第30号証、甲第31号証)

(ハ) 一方、被告は、昭和41年に設立した株式会社であり(当初の社名は「早瀬セロファン加工株式会社」であり、昭和61年9月に「ハヤセ株式会社」と社名を変更した。)、遅くとも昭和57年頃から、ショッピングバッグ用手提紐の1つとして、被告商品に「ハッピータック」との名称を付して、その製造販売を開始し、昭和61年度には約6600万本、昭和62年度には約7700万本、昭和63年度には約8250万本、平成1年度には約1億2440万本、平成2年度には1億3904万本、平成4年度には1億8720万本を製造した。被告は、販売網を全国に広げて、紙製・プラスチック製の手提袋のメーカー、一般消費者向けに大量に利用する企業などに被告商品を含めた自社商品を販売しており、平成3年当時の被告の商品の市場占有率は、関東、東北、北海道地区において65%、近畿、中部地区において20%、中国、四国、九州地区において15%となっていた。(乙第4号証、乙第5号証、乙第25号証、乙第33号証)

(ニ) 被告は、昭和57年3月から昭和58年3月までの間及び昭和62年2月から現在まで、業界紙であるポリオレフィン時報、週刊包装産業、製袋情報に継続的に広告を掲載し、引用商標を使用して被告商品の広告宣伝に努めた。(乙第3号証の1ないし4、乙第10号証の1ないし27、乙第11号証の1ないし43、乙第12号証の1ないし9、乙第13号証の1ないし12、乙第14号証の1ないし13、乙第15号証の1ないし12、乙第16号証の1ないし3、乙第17号証の1ないし4、乙第18号証の1、2、乙第19号証、乙第30号証の1ないし9、乙第31号証の1ないし35)

(2)  ところで、商標法4条1項10号は、「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品又はこれに類似する商品について使用をするもの」について商標登録を受けることができないと規定しているところ、その内容及び商標法4条1項15号の規定の趣旨などに照らすと、その立法趣旨には、商品の出所の混同を防止することが含まれているものと解される。そして、この立法趣旨に鑑みると、他人が使用している商標が他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において、たとえ、商標登録を受けようとする者の使用する商標もまた、自己の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときであっても、本件のように両商標が類似する以上、出所の混同のおそれがあることは明らかであるから、商標登録を受けようとする者は、その商標の登録を受けることができないと解するのが相当である。

(3)  これを本件についてみるに、前記(1) 認定の事実によれば、原告と被告は、本件商標の登録出願日である平成2年10月26日当時、原告商品、被告商品について、我が国の市場占有率の1位、2位を争うメーカーであることが認められ、また、その広告宣伝等の事実によると、引用商標は、本件商標の登録出願の当時、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたというべきであるから、たとえ、本件商標もまた、その頃、引用商標と同様に需要者の間において広く認識されていたとしても、前記改正前の商標法4条1項10号の規定に該当し、商標登録を受けることはできないものというべきである。

よって、本件商標は、その指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」について、商標法4条1項10号の規定に違反してされたものであるとの審決の判断は、正当である。

第3そうすると、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

(別添審判書の理由)

理由

1.本件登録第2543218号商標(以下、「本件商標」という。)は、「ハッピータッグ」の片仮名文字を書してなり、平成2年10月26日に登録出願、第18類「ひも(被服に属するもの及びはき物用又は運動具用ひもを除く)綱類(運動具に属するものを除く)網類(運動具に属するものを除く)包装用容器」を指定商品として、平成5年5月31日に設定登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

2.請求人が本件商標の無効の理由として引用する登録第391805号商標(以下、「引用商標1」という。)は、「ハッピー」の片仮名文字を書してなり、昭和23年9月6日に登録出願、第50類「紙、及他類ニ属シナイ其ノ製品」を指定商品として、昭和25年9月20日に登録、その後昭和45年10月27日、昭和56年4月30日、平成3年8月29日の3回に亘り、商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

3.請求人は、本件商標の登録は、これを無効とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第26号証(枝番を含む。)を提出している。

(1) 利害関係について

請求人は甲第7号証に示す如く、被請求人から「請求人が『手提げ袋のさげ手』に『ハッピータック』の商標を使用していることが本件商標の商標権侵害である」旨の通告を受けた。したがって、請求人は利害関係を有する者である。

なお被請求人は、本件商標の異議申し立て期間中に請求人が異議申し立てをしていないと主張するが、そうであるからこそ本件請求をしているのである。請求人が被請求人から侵害警告を受けたのは異議期間経過後の平成5年12月16日である(甲第7号証)。よって本件請求は極く順当な手続である。

(2) 本件商標は他人の登録に係る「ハッピー」と商標、指定商品ともに同一乃至は類似するため、商標法第4条第1項第11号に該当するものであり、その登録は無効とされるべきである。

即ち、本件商標の構成中の「タッグ」を英文字で表示するに「TAG」であること明らかであり、該「TAG」が付け札、下げ札、荷札、定価札等を指すことも明らかである。したがって、甲第1号証の「ハッピー」と商標は同一であり、かつ、甲第1号証の指定商品が第50類の「紙及び他類に属せざる製品」であり、本件商標の指定商品中の「包装用容器」とは類似する商品である。

(3) 本件商標の構成中の「タッグ」は、英単語の「TAG」を直感するものであり、該「TAG」には甲第2号証に示す如く付け札、下げ札等の意味があるため、これら以外の商品を指定することは、品質の誤認を生ずるため、商標法第4条第1項第16号に該当し、その登録は無効にされるべきである。

即ち、「タッグ」は、「TAG」に通ずること、既に日本語化されたものであり、例えば「下げ札」のことを「タッグ」と言うことも日常的である。したがって、「ハッピータッグ」は、「ハッピー」印の「タッグ」、即ち、「ハッピー」印の「下げ札(付け札)」となり、下げ札、付け札、以外の商品に用いることは品質の誤認を生ずる。

(4) 本件商標はその出願前既に周知となっている他人の商標「ハッピータック」(以下、「引用商標2」という。)と類似するので、出所の混同を来たし、商標法第4条第1項第15号に該当し、その登録は無効とされるべきである。

即ち、請求人である「ハヤセ(株)」が旧名称「早瀬セロファン加工株式会社」であった昭和57年当時、ショッピングバッグ用手提紐の名称に「ハッピータック」なる商標を用いていた。このことは昭和57年5月17日発行の「ポリオレフィン時報(甲第3号証の1)」並びに週刊「包装産業」(昭和58年5月30日付、同59年9月3日付、同60年10月7日付/甲第3号証の2乃至4)の広告により明らかであり、爾来現在に至るまで、ショッピングバッグ用手提紐の商標を「ハッピータック」としている(甲第4号証の会社案内並びに同第5号証のカタログ参照)。したがって「ハッピータック」といえば、ハヤセ(株)のショッピングバック用手提紐のことを指すこと、業界においては周知のものである。

(5)商標法第4条第1項第11号に関する答弁に対する弁駁

被請求人は、本件商標「ハッピータッグ」のうち「タッグは片仮名文字であって、英文字のTAGを使用していないので、タッグ=TAG=下げ札の式は成り立たない。」旨答弁するが、「TAG」は「タッグ」として既に日本語化しているものであること説明を要しない。この点を立証するため国語辞典「大辞泉」(1995年12月1日小学館発行)を甲第8号証として提出する。

また、被請求人は、「TAGを仮りに付け札とした場合には他分類に属する云々」と答弁するが、これとて、所謂商標を理解していないと云わざるを得ない。他分類での普通名称と云っても包装用品関連商品である以上、内容表示でないとするのなら、品質誤認になることは説明を要しない。しかも乙第1号証乃至同第14号証の「ハッピー○○」の「○○」は「RABBIT」、「PILOT/パイロット」等であり、これら「○○」部分は「○○」のみでも充分に自他商品識別力を有するものであり、どれ1つとして本件商標の様な内容表示乃至は品質の誤認を生じさせる(おそれのある)ものは見当らない。

したがって、乙第1号証乃至同第14号証の事例とは明らかに異なり、本件商標「ハッピータッグ」は「ハッピー」に類似するものである。

(6)商標法第4条第1項第16号に関する答弁に対する弁駁

「TAG」は、「タッグ」として既に日本語化しているものであって、該「TAG/タッグ」が付け札、下げ札を表示するものとして認知されている以上、「ひも、綱類、網類、包装用容器のいずれとも見間違えることは考えられない」とする答弁は何ら説得力のないところである。「タッグ(TAG)」といえば下げ札、付け札であることを認めないのは本件無効審判請求が利害関係人によるものでないとするのと同様理解に苦しむものである。

(7)商標法第4条第1項第10号及び同第15号に関する答弁に対する弁駁

請求人の使用する「ハッピータック」が、本件商標に類似(同一に限りなく近い)するからこそ、請求人は、甲第7号証の通告を受けたのであろうし、類似しないとするのであれば、通告する必要はなかったはずであり、禁反言違反も著しい。ここで改めて請求人の使用にかかる「ハッピータック」の周知性につき主張し、証拠を補充する。

〈1〉請求人が自己の商品に「ハッピータック」の使用をした経緯、時期について

請求人であるハヤセ株式会社(旧早瀬セロファン加工株式会社)が製造、販売を開始する手提袋の提手に使用している「ハッピータック」なる商標は、昭和55年に登録第1236980号実用新案権についての通常実施権の許諾(甲第9号証)を得て、この種商品に参入した際に選択されたものである。以来、年間数千万本の製造量となり、業界全体の60%以上のシェアを確保するに至ったもので、「ハッピータック」と云えば「ハヤセ」の手提袋用堤手のことを指すこと周知の事実である。

〈2〉ハヤセ株式会社が「ハッピータック」を自己の商品の商品名として業界誌に広告したものは以下の通りである。

(イ)ポリオレフィン時報

(月3回-7日、17日、27日-発行)

昭和57年1年間を例にとっても、3月27日から12月17日迄10日ごと(毎回)に「ハッピータック」を広告の中で使用している(甲第10号証参照)。

(ロ)週刊包装産業(毎週発行)

昭和58年(3月迄は旧誌名「製袋情報」で発行)は43回、昭和62年は10回(確認できたもののみ)、昭和63年から平成2年迄は夫々12回広告の中で「ハッピータック」を用いている(甲第11号証乃至同第15号証参照)。

これらにより、甲第3号証乃至同第5号証のみでは周知性不充分との答弁は、説得力に欠けるものとなったといわざるを得ない。広告宣伝の方法や回数が極めて重要であること当然であり、以上をもって、周知性ありと確信する。

〈3〉先の甲号証では「ハッピータック」の使用時期を裏付けるものとしては平成2年迄のものしか提出していないものの、甲第16号証乃至同第19号証により平成6年(もちろん現在も使用していることは甲第4号証の会社案内で明らかである。)までの使用が継続して行なわれていることを立証する。

なお、仕入日報(甲第20号証)や買掛元帳(甲第21号証乃至同第24号証)でも「ハッピータック」の商品名で種々出荷している事実はあり、これからも「ハッピータック」を継続的に使用していることが明らかである。

また、売上実績は甲第25号証の報告書(1) の通りであり、かつ販売状況は同第26号証の報告書(2) の如くである。

ちなみに、報告書(1) に示す如く平成2年度から(隔年の)製造・販売本数は、平成2年度が1億3904万本であり、平成8年度は1億8372万本である。そして、その出荷実績は一地方に限定されず、報告書(2) に示す如く、経済の主要地区である関東地方、関西地方、中国・四国地方に夫々45%、22%、17%出荷しており、その周知性は全国に及んでいる証左である。と同時に、売上割合も約18%であり、年々1億本以上もの「ハッピータッグ」が市場に流通しているものであり、到底無視できないものである。

なお、周知性につき、商品の性質上、一般購買者云々は論外である。

以上により本件商標は、先使用でかつ周知の商標「ハッピータック」が存在することにより商標法第4条第1項第10号に該当するものである。

(8) よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同第4条第1項第16号、同第4条第1項第15号並びに同第4条第1項第10号のいずれの規定にも該当するため、本件審判請求によりその登録を無効とされるべきである。

4.被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べている。

(1) 利害関係について

本件無効審判は請求人適格がないものである。

請求人は、本件商標の異議申立て期間中には異議申立てをしていない。

また、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当することの根拠として用いている引用商標1は、請求人が所有するものではないので、請求人は、無効審判に係る本件商標が保護を受けることによって不利益をこうむるおそれがあるものとはいえない。

すなわち、請求人は、本件商標の存否によって、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けるか、又は受ける可能性のある者とは言えない。

したがって、請求人は、本件商標権者との間に利害関係がなく、無効審判の請求人適格がないものとして、本件無効審判の請求は不適当であり、審決による却下がなされるべきである。

(2)  商標法第4条第1項第11号について

〈1〉本件商標の構成中「タッグ」の文字部分は、「TAG」という英文字を使っていないので、これが即付け札、下げ札、荷札、定価札等の意味であるとすることができるか疑問である。

しかも、無効審判請求書では、本件商標の構成中「タッグ」の部分に自他商品の識別力がないとすることの根拠は、これが付け札、下げ札、荷札、定価札等の意味の普通名称であるとのことと思われるが、英語の「TAG」が意味するところの「付け札」は旧第25類の文房具類の範疇に属するもので本件商標の指定商品である旧第18類の商品の普通名称ではない。

このように本件商標の構成中「タッグ」の部分は、仮に英語の「TAG」に通じるとしても他分類に属する商品を表す言葉であるから内容表示の言葉とはならず自他商品の識別力が十分に認められる。

したがって、本件商標は、一体性のある一連の「ハッピータッグ」であり、引用商標1とはこのタッグ部分があるが故に非類似であるといえる。

さらに、本件商標が引用商標1と非類似であることの根拠として、「ハッピー」という言葉の後方に他の言葉を一体的に付加した「ハッピー○○」とするものが、引用商標1よりも後から出願したにも係わらず多数登録となっている(乙第1号証乃至同第14号証参照)。

乙第1号証及び同第2号証は、いずれも商品区分が引用商標1と同じ第50類であり、しかも指定商品も全く同じであり、引用商標1よりも後に出願したにも係わらず登録となっている。

甲第3号証乃至同第14号証は、いずれも「ハッピー○○」の形に当てはまり、本件商標と同様に第18類に属し、引用商標1よりも後に出願しているにも係わらず、引用商標1とは非類似として登録となっている。

してみれば、本件商標についても例外ではなく、本件商標と引用商標1は、「タッグ」の有無により非類似である。

〈2〉本件商標は、「ハッピー」と「タッグ」が一体不可分に結合されたものであり、間に空白やハイフンや点などが挿入されたものではない。

ここで、本件商標が、「ハッピー」と「タッグ」の結合商標であると考えてみても、前半部と後半部はともに商品との関連が全くないので、両者を分けなければならない特段の理由はない。

また、この「ハッピータッグ」を称呼する上でも、促音及び長音を含めて7音という決して冗長な長さではない音数であり、一連によどみなく一気に称呼できるので、「ハッピー」と「タッグ」で区切らなければならない理由は見当たらない。

仮に、本件商標を前半部と後半部に分けて、このうち「タッグ」の部分について請求人が主張するように誤って翻訳されて「TAG」に通じるとされても、その意味するところは「付け札、下げ札」であるから、他分類(第25類の紙類、文房具類)の商品を表す言葉なので、本件商標が属する第18類の商品に使う場合には普通名称とはされない。

なお、乙第1号証乃至同第14号証の「ハッピー○○」の「○○」に相当する「RABBIT」等は請求人も弁駁書において認めているように、これのみで自他商品の識別力を有する。これは、「RABBIT」が意味するところの商品「うさぎ」が他分類(第33類)に属するからである。

よって、本件商標は、引用商標1とは非類似であり、商標法第4条第1項第11号には該当しない。

(3)商標法第4条第1項第16号について

〈1〉本件商標の文字構成は、わざわざ片仮名で「タッグ」と構成していることから、英語の「TAG」とは異なる言葉である。

仮に、本件商標の構成中「タッグ」の部分が英語の「TAG」に通じるとしても、この「TAG」が意味するところの、付け札、下げ札等を見て、本件商標の指定商品である、ひも、綱類、網類、包装用容器のいずれかと見間違えることは考えられない。

ゆえに、本件商標の構成中「タッグ」の部分は商品の品質の誤認を生じない。

〈2〉本件商標の標章の「ハッピータッグ」は片仮名文字からなるので、原則として特定の観念を持たない造語であるから商品の品質の誤認を生じるおそれはないものと思料する。

また、一歩譲って、請求人の主張するように本件商標を前後で分離して、このうちの後半の「タッグ」の文字部分のみを誤って翻訳して捉えられたとしても、これから想定される観念は、先にも述べたように「付け札、下げ札」であるから、これらは本件商標が属する第18類の商品である「ひも、綱類、網類、包装用容器」のいずれとも、メーカーが異なり、しかも取り扱われ方も異なるので、需要者が商品の品質の誤認を生じることはない。

このことは、「ハッピー○○」の一例として挙げた乙第1号証の「HAPPY RABBIT」で言えば、「RABBIT」すなわち「うさぎ」は第33類に属するにも係わらず登録となったことからも、他分類に属する商品を表す言葉が商品の品質の誤認を生じないことは一目瞭然である。

よって、本件商標は、商品の品質の誤認を生じないので、商標法第4条第1項第16号に該当することはない。

(4)商標法第4条第1項第10号または第15号について

〈1〉請求人は引用商標2が周知であることの証明として、甲第3号証乃至同第5号証(枝番を含む。)を提出しているが、このような甲第3号証乃至5号証のみでは引用商標2が周知であると立証するには不充分である。

周知であることの証明には広告宣伝の方法や回数が極めて重要である。

ところが、引用商標2は、甲第3号証の1乃至同4のように毎週または10日毎に発行される新聞に年に1度のベースで掲載されているだけであり、しかもこれらの書面のうち広告欄においてその他の商標とともに小さい文字で記載されているにすぎない。

なお、甲第3号証の1乃至同4は、かなり専門的な刊行物であり、一般の者は購読しないものである。また、頒布地域は不明である。

また、引用商標2を付した商品ショッピングバック用手提紐の生産量、売上額などが不明である。

したがって、前記甲第3号証乃至同第5号証のみを根拠として引用商標2が周知であるとは言えない。

〈2〉しかも、請求人の主張は本件商標が引用商標2と類似するので、商標法第4条第1項第15号に該当し、出所の混同を来たすとのことであるので、引用商標2は周知のみならず著名な商標でなければならない。

商標法第4条第1項第15号に該当することは他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるということであるが、その判断に当たっては、

(イ)その他人の標章の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)

(ロ)その他人の標章が創作標章であるかどうか

(ハ)その他人の標章がハウスマークであるかどうか

(ニ)企業における多角経営の可能性

(ホ)商品間、商品と役務間の関連性

等を相互的に考慮するものとするとされ、さらに、「取引の実情等個々の実態を充分考慮するものとする。」とされ(以上、商標審査基準より)、前記甲第3号証乃至同第5号証はこれらを満たすものとは言えず、したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。

〈3〉弁駁書で補充された甲第10号証では、引用商標2について若干広告をした形跡はあるが、これとて昭和57年3月から同年12月までの一年間にも満たない広告期間であり、到底周知性は認められない。

その他、甲第11号証以降の証拠については業界紙のつき合い程度の広告であり、しかも、これら甲第11号証以降の証拠において、引用商標2は、「PEARL ROPE/パールロープ」なる表示とともに商標らしき使用はあるものの、丸紐、PPロープ、平紐、紙紐などの普通名称に埋もれさせてこれと混在した使われ方をしており、自立した使用はしていないため、周知、著名的表現とはいえない。

なお、甲第11号証以降の証拠は、本件商標の出願時点に相当する平成2年12月までのものであり、これでは、それ以降の商標「ハッピータック」の周知性の判断がつかない。

また、周知度の判断のため請求人の使用に係る商標「ハッピータック」を付した商品の売上実績や販売状況についても併せて提示されたい。

〈4〉新たに補充された証拠について述べると、甲第16号証によれば、引用商標2は、平成3年の1年間でたった3回しか広告に掲載されていない。甲第18号証によれば、平成5年の1年間でたった2回しか広告に掲載されていない。甲第19号証によれば、平成6年の1年間でたった1回しか広告に掲載されていない。

このように、現在に近づくにつれて、引用商標2の広告掲載期間があいていることに加えて、甲第16号証乃至同第19号証では、引用商標2の表示がかなり小さく、かつ、相変わらず普通名称に埋もれた使い方をしている。

しかも、弁駁書によれば、平成6年以降現在までについては会社案内でしか掲載していないとのことなので、現在では全く広告掲載をしていないものと思料する。

なお、甲第20号証乃至同第24号証として仕入日報や買掛元帳が提出されているが、数量が消されており、しかも、実際に取引に使われたことを裏付ける客観的な証明がなされておらず、証拠としては不十分である。

また、甲第25号証及び同第26号証については、請求人から担当代理人に宛てた恣意的な書類にすぎず、証拠としては全く不十分である。

このように、本件商標の登録時のみならず出願時においても、本件商標に同一又は類似の周知、著名商標は存在しないので、本件商標は商標法第4条第1項第10号又は同第15号のいずれにも該当しない。

(5)  したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第16号、同第10号又は同第15号のいずれにも該当しない。

5.よって、本件審判の請求に関し、当事者間に利害関係の有無をめぐり争いがあるので、先ず、この点について判断するに、請求人が提出した甲第7号証(通告書)によれば、被請求人は、平成5年12月16日付けで、「請求人が商品『紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手』について使用している引用商標2は、本件商標と類似し、該商標権を侵害するから、その商標の使用を中止することを申し入れる。」旨述べていることが認められる。

してみれば、請求人は、本件商標の存在により法的不利益を被っていることは明らかであり、本件審判を請求するについて利害関係を有するものといわなければならない。

そこで先ず、本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当するか否かについて判断するに、請求人の提出に係る甲第3号証、同第10号証乃至同第26号証によれば、請求人は、昭和57年3月以降、引用商標2を、指定商品中「紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手」について継続して使用し、広告、宣伝も定期的に行っていることが認められる。また、請求人の述べるところによれば、該「紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手」を全国各地で相当数販売し、昭和55年以来、年間数千本万の製造量となり、業界全体の6割以上のシェアを確保するに至っていたことがうかがわれる。

そして、該「紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手」は、「手さげ袋」のいわば部品と認められるものであって、完成された商品の最終需要者が購入するものではなく、その用途も特定され需要者も限定された特殊なものである点を勘案すれば、本件商標の出願当時には、引用商標2は、請求人の取扱いに係る該商品を表示するものとして取引者、需用者の間において広く認識されていたものと判断するのが相当である。

しかして、本件商標と引用商標2との類否について検討すると、本件商標は、「ハッピータッグ」の文字を書してなるから、該構成文字に相応して「ハッピータッグ」の称呼を生ずるものといえる。

一方、引用商標2は、「ハッピータック」文字に相応して「ハッピータック」の称呼を生ずるものといえる。

そこで、「ハッピータッグ」と「ハッピータック」の称呼を比較すると、両称呼は、末尾において、「グ」の音と「ク」の音に差異を有しているのみで、他の部分の「ハッピータッ」の音を全て同じくするものである。しかして、この差異音は、母音(u)を共通にするものであって、後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発する濁音と清音の差に止まるものであり、しかも、この差異は、明瞭に聴取されにくい末尾に位置するものであるから、この差異が、称呼全体に及ぼす影響は僅かなものであり、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、全体の語調、語感が極めて酷似し、彼此相紛らわしいものと認めるのが相当である。

したがって、本件商標と引用商標2とは、外観及び観念について相違するところがあるとしても、称呼上類似するものといわなければならない。

また、請求人の取扱いに係る商品「紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手」は、品質、用途、機能等からみて、第18類に属する「紙製包装用容器」、「プラスチック製包装用容器」と類似する商品と認められる。

したがって、本件商標の登録は、その指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」については、商標法第4条第1項第10号に違反してなされたものといわなければならない。

しかしながら、第18類に属する「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」以外の商品については、請求人の取扱いに係る商品「紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手」と品質、用途、機能等からみて非類似のものといわなければならないから、本件商標の登録は、その指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」以外の商品については、商標法第4条第1項第10号に違反してなされたものということができない。

次に、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するか否かについて判断するに、「紙製及びプラスチック製手さげ袋のさげ手」と第18類に属する「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」以外の商品とは、前記のとおり非類似の商品と認められるばかりでなく、材質、製造業者、取引系統等を異にする異質のものというべきであるから、これをその指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」以外の商品について使用しても、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはないものとみるのが相当である。

したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してなされたものということができない。

さらに、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するか否かについて判断するに、本件商標と引用商標1は、前記構成よりなるものであるから、それぞれを構成する文字の相違により外観上、明らかに区別し得る差異を有するものである。

次に称呼の点についてみるに、本件商標は、「ハッピータッグ」の文字を書してなるところ、仮に「タッグ」の文字が、「下げ札、付け札、荷札」の意味を有する「TAG」の文字をを片仮名で表したものであるとしても、「下げ札、付け札」は、第25類に属する商品と認められるものであり、「荷札」は、第19類に属する商品であるから、本件商標を第18類に属する商品について使用しても、これに接する取引者、需要者は「タッグ」の文字部分が本件商標の指定商品の品質を表示する部分、すなわち自他商品識別標識としての機能を果たさない部分とは理解しないものと判断するのが相当である。

また、本件商標は、外観上まとまりよく構成され、構成上も「ハッピー」の文字と「タッグ」の文字に分離して認識する事由は存しないものとみるのが相当である。

してみれば、本件商標は、一体不可分の商標と認められるから、該構成文字に相応して「ハッピータッグ」の称呼のみを生ずるものといわなければならない。

一方、引用商標1は、「ハッピー」の文字を書してなるから、該構成文字に相応して「ハッピー」の称呼を生ずるものといわなければならない。

そこで、「ハッピータッグ」と「ハッピー」の称呼を比較すると、全体の構成音数の相違により、明確に聴別し得るものである。

さらに、観念の点についてみると、引用商標1は、「幸福な」の意味を有するとしても、本件商標は、造語と認められるものであるから、観念については比較することができないものである。

してみれば、本件商標と引用商標1とは、外観、称呼、観念のいずれの点についても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。

したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してなされたものということができない。

最後に、本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当するか否かについて判断するに、本件商標は、前記のとおり一体不可分の商標と認められるものであり、これに接する取引者、需要者は、特に「タッグ」の文字部分に注目するものとも認められないから、本件商標をその指定商品について使用しても商標の品質の誤認を生ずるおそれがあるものということはできない。

したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第16号に違反してなされたものということができない。

してみれば、本件商標の登録は、その指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」については、商標法第4条第1項第10号に違反してなされたものといわなければならないから、上記商品について同法第46条第1項第1号により無効とすべきである。

また、本件商標の登録は、その余の指定商品については、商標法第4条第1項第10号、同第11号、同第15号及び同第16号に違反してなされたものということができないから、指定商品中「紙製包装用容器、プラスチック製包装用容器」以外の商品について同法第46条第1項第1号により無効とすることができない。

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